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大阪家庭裁判所 昭和45年(少)927号 決定 1970年4月24日

少年 H・S(昭三〇・八・一一生)

主文

本件につき審判を開始しない。

理由

送致にかかる少年の本件非行事実は、

「少年は、

一  昭和四五年二月九日午前一〇時ごろから正午ごろまでの間、○○府○○市○○○町五丁目一〇の四○畠○重子方前路上において、同所に置いてあつた同女の長女○畠○子所有の中古子供用自転車一台(時価約二〇〇〇円相当)を窃取し、

二  同日午後〇時五〇分ごろ、同市○○町×丁目×番××号○内○規方前路上において、同所に置いてあつた同人所有の中古子供用自転車一台(時価約二〇〇〇円相当)を窃取し

たものである」

というのであり、一件資料によるときは、少年が右各窃取行為を行なつたとの外形的事実はこれを認めるに十分である。

少年は、かつて近隣において自動車・自転車類へのいたずらがひどいなどのことがあつたものの、生来的な脳性小児マヒのため言語その他の行動障害がひどく、その知能指数も二八(鈴木ビネー式)で測定不能な程度であるほか、日常生活においても自己の物と他児の物との区別が容易でなく、家庭での指導が困難と認められ、昭和四〇年一〇月四日大阪府立池田児童相談所において精神薄弱児施設入所が適当と判定され、昭和四一年七月一一日大阪府立砂川厚生福祉センター内いこま寮に入所し、以来今日まで同所において社会人としての日常生活を行ないうるよう指導・訓練を受けている身である。

本件は、同寮に入所中の少年がたまたま帰宅を許され両親のもとで生活中に行なつたいたずらという程度の窃取行為であり、前述の如き当時における少年の恒常的精神状態に鑑みるときは、少年が本件窃取行為に際し、「盗む」という意識(犯意)を有しえたのかどうかということがそもそも疑問であるほか、かりにその点はこれを積極的に解されるとしてみても、本件は自己の行為についての是非善悪の弁識能力を欠如した心神喪失者の行為と認めるのほかなく、有責性を欠くという点で犯罪行為には該当しないといわなければならない。

はたしてそうであるとするならば、少年に対しては、「非行事実なし」として措置するのが相当であると思料される。

(本件のような少年についても、その社会適応性を涵養するため、施設収容による保護育成の必要性があることは、これを否定しえないところではあるが、それは専ら精神薄弱児施設など児童福祉法上の施設収容に委ねるべきことがらであつて、主として犯罪的傾向を有する少年に対する保護育成をその任務とする家庭裁判所が行ないうる領域外のことがらである。その点を明確にする意味においても、少年については「非行事実なし」として措置するのが相当であるといわなければならない。なお、少年は現に前記センターいこま寮に入所中である。)

よつて、少年を審判に付することはできないというべきであるから、少年法一九条一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原宏武)

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